Chap2: 労働法と就業トレンド
- アメリカの就業トレンド
- アメリカの労働法
- 「差別」を証明する方法は?
- 日本との違い
さて、今回は「労働法と就業トレンド」について、学んだことを書いていきたいと思います。
1. アメリカの就業トレンド
日本でも外国人労働者に対する規制緩和などが進められていますが、アメリカは従来から”移民の国”として言われるように外国人労働者が多く存在します。中でも最近のトレンドは、ヒスパニック系人種の増加、アジアンアメリカンの増加です。
(Asianというカテゴリーはこの映画のおかげでホットになりましたね)
少し古いですが「A Century Apart(2010年)」で発表されたデータの中では、人口、平均寿命、平均賃金、教育の観点から様々な見解が述べられています。また、学校で学んだ研究結果の中では、就業環境のトレンドとして以下の3点が述べられました。
- 人種の多様化が促進されていること(白人・黒人は大きく変わらず、ヒスパック人種とアジアンアメリカンの数が増えている)ということ(上記のレポートではアジアンアメリカンの教育熱心さ、またそこから生まれるハイサラリーが触れられています。)
- これまでの労働人口の中心であった"Baby Boomer世代(1946-1964年生まれ)"がリタイアし、2016年には"ミレニアル世代(1981-1996年生まれ)"が最大規模の労働人口になったとされています。
- 移民問題の原因の一つになっているのかもしれませんが、Less-educated people(教育を受けていない人々)の増加も別のデータとしては証明されている、というところです。
※アジアンアメリカンとは、アジア系のNational Origin(主に中国)を持ち、アメリカで生まれた人々ないしはアメリカ国籍を持つ方々を一般的にそのように分類するそうです。
※2000年と2010年を比較した際、カルフォルニアの人口においては、Whiteと分類される人々は57.6%(+6.4%)に留まっており、Asianが13%(+31.5%)、Hispanicが37.6%(+27.8%)となっています(カッコ内は増加率)
一方で、GAFAと呼ばれる巨大テクノロジー企業群のGoogle、Apple、Facebook、Amazonなどは全て米国発の企業でベイエリアまたは西海岸に集中しています。従って、このベイエリアがテクノロジーの中心である以上は、優れた技能を持つ人材(代表的な職種はエンジニア)は、海外から獲得するしか手がない状態が今後も一定期間続く、と授業では結論づけられていました(最近は中国も熱いみたいですね)。
2. アメリカの労働法
アメリカのHRとして働くことを想定する場合、労働法に対する理解は必須とされています。代表的なものだけでもこれだけたくさんあります。
- Civil Rights Act 1964(TitleⅦ)
- Equal Pay Act 1963
- Age Discrimination in Employment Act 1967
- Equal Employment Opportunity Act 1972
- Vocational Rehabilitation Act 1973
- Pregnancy Discrimination Act 1978
- Americans with Disabilities Act 1990
- Civil Rights Act 1991
- Genetic Information Nondiscrimination Act 2008 (GINA)
- ADA Amendments Act 2008
- Lilly Ledbetter Fair Pay Act 2009
- Executive Order 11246
授業中では、「Discrimination」という言葉が何度も繰り返されます。これは「差別」という意味で、やはりアメリカでのこの言葉に対する意識は強烈です。個人的には、こちらに来て最も印象に残った言葉でもあり、私が通うUC Berkeleyはあの Martin Luther King Jr.がスピーチをしたことでも有名で、「Human rights」というものを意識させられる機会が多くあります。
差別については、Civil Rights Actから「Race, Color, Religion, Gender, National Origin(人種、肌の色、宗教、性別、国籍)を要因として就業や教育機会に対する意思決定がされてはいけない」と定義づけられており、これが大原則としてアメリカでは根付いています。さらに、障がいを持つ方、妊婦、軍役からの帰任された方々を支援する仕組みが存在します。ただ、法というものでマイノリティが優遇されるような事はなく、仮にマイノリティを理由に採用不合格としたら罰しますよ?というものになっています。
事実、日本の企業では「外国人をX名採用する」といった目標を立てて、日本人とは全く別ルートで採用する事も珍しくはありません。この場合、差別とされる可能性もあるのがアメリカです。
3. 差別を証明する方法は?
上記のような法があっても、実際の法廷の場では「それを差別とするか否か」という結論を出す為に、様々な検証がなされる必要があります。代表的な検証方法は以下の通りです。
- Disparate Rejection Rates (4/5ths Rule)
- Standard Deviation Rule
- Restricted Policy
- Population Comparisons
- McDonnell-Douglas Test
上記の検証方法をもとに、XX会社が実施した採用や昇格の意思決定は、以下の2要素の有無を明確にしていきます。
- Adverse (Disparate) Impact =集団に対して差別的な影響がある
- Disparate Treatment =個人に対して差別的な扱いをした
一方、イレギュラーなケースではありますが、上記でも言及したように、法というものでマイノリティが優遇されるような事はないため、逆にマジョリティ人種が差別を受けた事を証明するReverse Discriminationという考え方も存在します。
4. 日本との違い
「私、おじいちゃんがメキシコ人なんだよね」
「俺、お父さんがブラジル人なんだ」
「俺、お父さんがフランス人なんだ」
こんな会話、耳にした事はありますでしょうか。日本でもハーフやクォーターの方々を多く目にしますが、アメリカ(特にCalifornia)では感覚値で2人に1人、ないしは3人に2人がアメリカ以外の国にNational Originを持っています。
この先、少子高齢化を迎え、労働人口がさらに減っていく日本は、規制緩和とともに多くの異なるNational Originを持つ人を迎えていく事になるんでしょう。
私が日本で生活していた頃は、差別という意識を強く持つ事はありませんでした。そして、なんで人は差別してしまうのだろう、よくない事だよね。なんて軽い事を考えていましたが、それは「違いに遭遇する機会の絶対的な少なさ」がもたらす無知だったなと感じています。
人は偏見を持ちます。そしてその偏見は差別と紙一重です。従って、私たちにも違いと触れる機会が多くなれば、必ず「差別という解釈」は発生してしまうんだろうと感じています。こちらでも様々な多様性を尊重する為に「Affirmative Action(弱者集団の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境に鑑みた上で是正するための改善措置のこと)」や「Fair Treatment(例えば、休日というものをいつにするか。宗教上の休日を休日とするか、など)」という理解尊重を進める動きが展開されていますが、おそらく、日本企業も十年以内にこの考え方を学んでいく必要性が出てくるんではないかなと思います。
そんな事を考えながら、様々な人の価値観に触れていこう!と思うこの頃でした。
Masa